サラリーマン太郎の勇者日記
 ここは現代じゃない。
 つまり、中世!? 
 アーサー王を小さいころ、歴史オタクの兄貴に読んでもらったことあったっけ。
 雰囲気がちょうど、円卓の騎士にそっくりなんだよなあ。
 もしかして、ギネヴィアなみに超すげえ美女、いたりして。
 おっと、顔をゆるませている場合か、俺! しっかりしろ、俺ッ!
 私は頬を手のひらでたたいた。
 伝令・・・・・・。お役目。
 騎士といってもあれだな。サラリーマンと何もかわらねえよ。とほほ。
 違うのは人を殺して金をもらうってことだろうか。
 ・・・・・・殺伐すぎる・・・・・・。
「オジサン」
 ところどころ壊れた壁の家、砂塵巻き起こる廃墟のような町に入ると、突如呼び止められた。
「こっちだ、こっち」
 手招きされてそっちに近づいた。
 私を呼ぶのは誰じゃ、それは少年じゃ、なんてギャグ飛ばしてる場合か・・・・・・。
「あんた、寝てる間に飛ばされてきただろ」
「ぐはっ。な、なぜそれを? わかったぞ、お前、悪魔の使いか?」
 私のリアクションがおかしかったんだろうか、少年は苦笑をしていた。
「ちがうちがう。オレはユースケ。アンタと同じ、二十一世紀の人間だよ。でもここは違うぜ。古代のフランク王国。そして、驚くなよ。あんたを呼んだのはオレなんだ」
「な、なんだって!?」
「いや、手違いでさ。すまなかった。お詫びといっちゃ何だが、この剣やる」
 ユースケは私に赤い鍔の剣を渡す。装飾が立派で、竜の紋章がついていた。
「それは、神の剣。グラムっていうんだ」
「グラム? ・・・・・・って、重さの単位・・・・・・」
 ユースケは言うと想った、と私をはたいた。
「あほ。 まったくのオヤジだな、あんたはっ。神の剣だっていっただろ。別名をドイツ語でバルムンクって言うんだよ。殺傷能力がほかの剣より鋭いから、神の剣って言われてるね」
「な、なるほど。詳しいね」
「まあね。世界史ならまかせてくれ」
 ユースケは得意そうに笑みを浮かべながら、私にフランク王国のことをいろいろ教えてくれた。
「フランクの王様は言っちゃ何だが、頼りねえんだよな。宰相がいただろ。あいつの言いなりだって」
「ああ、そんなことをいっていたね。ロゼッタって子が」
「宰相は思い通りにしながら王を追放したがっているらしい。俺の突き止めた情報だ。あんた、気をつけたほうがいいぜ。それでなくとも、これから戦争の伝令に行くんだろう?」
 ぎくっ。
 悟られていたか。
「羊皮紙片手に鎧着た姿見れば、誰だって予想つくわな」
「あ、ところで」
 ユースケは私が呼び止めたので振り返った。
「なんだい」
「私を呼んだっていっていたが、どうやって?」
「ああ、かんたんだよ」
 ユースケは地面に魔法円を描き、呪文らしい言葉を長々と唱え始めた。
 すると、ユースケより背の低い少年が現れた。
「こいつ、クロノっていうんだ。時間をつかさどる――悪魔だよ」
「あ、悪魔!?」
 私は腰を抜かしそうになった。ユースケは私を落ち着かせ、
「まあまあ。驚くなって。悪魔といっても、人間に悪さをする類のは、低俗な精霊さ。こいつは違うよ。時間をつかさどる悪魔、・・・・・・偉大なる神クロノスの分身だから」
 なんともまあ、スケールのでかいお話で・・・・・・。
「ここはフランクといっても、神話と歴史が交錯する世界らしいな。オレも最初は驚いた。だって、本物の魔術師は錬金術とかもそうだけど、ほとんどが失敗に終わっているからね。オレがやると成功した。そして、クロノと出会えた」
「なるほど」
「オッサンも魔法くらい使えた方がいいなあ」
 うっせぇ、ガキっ。
 ユースケは私に星型のペンダントを渡すとこういった。
「そいつを持っていな。何かあったら、テトラグラマトンと叫ぶんだ。いいね」
 ユースケはクロノをつれて、去っていってしまった。
 不思議なこともあるものだ。あのユースケという少年が私を呼んだ?
 何のために。
 そしてこのグラムだかバルムンクだかいう剣。
 剣など持ったこともないのに、私の手でしっくりなじんでいた。
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