サラリーマン太郎の勇者日記
 しかし、いわれたとおりのことを、王に報告せねばならなかった。
 シグルズは戻った私にどうだったか、しきりに尋ねた。
「なに? ヘルギだと?」
 シグルズは唇をかみ締め、歯軋りした。
 あまりこすると、磨り減りますよ・・・・・・。
「かまわん。それよりだな、あいつらを石火矢と投石器でぶっつぶす」
「あっちょんぶりけ! ひとごろしぃぃぃ〜!?」
「何を驚く。戦争だから当たり前だろう、タロー、お前も用意せよ」
 ・・・・・・生命保険はここじゃ役にたたねえじゃん! 
 ラリ子・・・・・・寝たきりのボケ蔵じじい、愛する息子。
 父さんは死んでもお前らの夫、息子、父さんだからな・・・・・・。 
 隊長に命じられ、仕方なく剣を抜くと、ヘルギくんが現れた。
 真っ白な馬を乗りこなし、城壁の近くまで来ると馬から下りた。
「ヘルギくん・・・・・・」
 私はこれから殺しあうのかと想ったら、身震いが起きた。
 いやだ。彼とは戦えない――。
 さっき、話をしたばかりじゃないか!
 そんな人と殺しあうなんて。
「隊長。私にはできない」
 シグルズ隊長はいつものように怒鳴り散らすかとかまえるが、しかし、なぜか沈黙を守っている。なんか、ヘンだった。
「隊長?」
 ゆすると、シグルズは口から大量の吐血をし、倒れてしまった。
「たい、隊長!」
 瞳孔が開いている。・・・・・・もうだめだ。死んでいた。
 私から戦意がうせると、グラムの輝きも弱まり、急にずっしりと剣が重くなった。
 もう・・・・・・グラムを持つことすらできなかった。
「命が惜しくば降参しろ。テオドリクス! 宰相のランゴバルド! このヘルギ様をなめるなよ。われらが父グスタフに代わり、このヘルギが成敗いたす!」
 ヘルギくんの部隊は、次々火矢を弓で放ち、城を炎で包み込んでいった。
 隊長は殺されたが、それでもヘルギくんとは戦えなかった。
 なぜなら私は、騎士ではないからだ。
 しがないサラリーマンだった。
「ヘルギくん、話がある」
 城壁の上から顔を出して、私は言った。
「このグラムを君に返すから、国に帰ってくれ」
「それはできないね」
 ヘルギくんは獣のような瞳を私に向ける。
 まるでそれは、獲物を狙うメスライオンのようだった。
「よせ。きみとは戦えない」  
「うるせえ! 文句があったら剣を持て、剣を!」
 古代の剣士と、現代人の差はここにあるのかもしれないと、ぼんやり考えていた。
 戦士たちはああして興奮状態に・・・・・・いわゆるトランス状態になって、無敵状態になろうとする。
 

「戦えないんだ・・・・・・」

 
 ヘルギくんに泣いて頼む。
 なきながら懇願した。どうか戦わないで欲しいと。
 しかし願いは却下されてしまう。
 どうしたらいいんだ、どうしたら・・・・・・。


 ここで思い出したことがあった。
 ユースケにもらったペンダント。
 これで助かるだろうか。
 私はペンダントを握って、テトラグラマトンと叫んだ。


――テトラグラマトン!
< 6 / 17 >

この作品をシェア

pagetop