ナツメ
なんて、ナツメ。
わたしね。
央介さんとナツメに出会って、自分が少しずつ変わっていたことに、最近になって、気が付くことがあります。
草木を愛でる気持ちとか。
古いものを大切にする想いとか。
朝のスープを好むとか。
珈琲の酸味の好みとか。
本を読む速度が早くなったとか。
文字を書くのに少し緊張するだとか。
見えないものを、心から信じるようになったとか。
思想についてそれなりに考えてみたりする、とか。
そうして、ナツメ
わたしが一番、驚いていることは。
小さい頃から何にも執着しなかったはずのわたしが、こんなにも、捨てることを惜しんでいる。
あなたと、央介さんについては。
ナツメ。
明日は少し、桜を見るために外へ出ようと思います。
あの桜色のニットは、わたしを、まだ少し冷たい風から守ってくれることでしょう。
そうして背中を丸めて歩く、ただ寂しいだけの姿を、花弁の中に上手く隠してくれるかもしれません。
おやすみなさい、ナツメ。
外は、とてもきれいな、月明かりです。