ナツメ
4月5日
4月5日、金曜日
ナツメ。
今日はナツメに、報告があります。
病室に、珍しいお客様が訪ねて来てくれました。
フルーツの沢山入ったバスケットと、その端正な顔立ちによく似合った、淡い黄色とピンクの花束を抱えて。
ピンとした、グレーのスーツを畳むようにして、緊張した面持ちで、神妙そうな視線を伏せて……
「お久し振りです」
そう言って、彼は、深々とわたしに頭を下げました。
ナツメ。
あなたのお兄さんの、春樹さんです。
お兄さん……春樹さんは、今にも泣いてしまいそうな瞳を、もう一度、わたしに向けてから、
「戸川さん」
そう、今にも消えてしまいそうな声で、呼んだのです。
それが、わたしを呼んだ声なのか、ベッドに横たわる「彼」を呼んだものなのかは、分かりません。
ただ、その声があまりにも悲しそうだったので、わたしは何だか可笑しくなっしまって、小さな笑みが、思わず声に出てしまいました。
わたしの、その失礼な行動は、けれども春樹さんを安心させたようでした。