ナツメ





……なんて。
なんだか少し、いじわるな言い方になってしまいましたね。

ごめんなさい。



けれどわたしは、初めてあなたに会った時の、あなたによく似合っていた真新しい桜色のコートの事を、今でも鮮明に思い出す事ができます。
風に舞うような色彩の柔らかさと、パリッとした襟の固さ。
あのコートもまた、あなたの肌に馴染む頃に、捨てられてしまったのでしょう。

あなたの周りを取り囲む全ての事は、愛される幸福と捨てられてしまう不幸の両面を、いつも孕んでいました。


そう。
わたしもまた、同じように……



ナツメ。

3月の夜はまだとても冷えます。
カーディガンの袖から、じわじわと冷気が忍び込んでくるようです。

少し早いけれど、もう休む事にします。


おやすみなさい。
また明日。






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