ナツメ
わたしはビデオに飽きると、その大きな本棚から、数冊の本を選んで、窓際に座りました。
柔らかな日射し。
甘い薔薇の香りが、微かに鼻孔をくすぐりました。
そうしてわたしは、ずっしりとした重みを膝に受けながら、ゆっくりと本のページを捲りました。
雪菜さんの本はどれも高級そうで。
できるだけそっと、丁寧に扱いました。
艶々した、光沢のある紙。
ザラザラと、指先に心地よい感触を残す紙。
外国の絵本は絵柄がとても綺麗で、文字が読めなくても飽きることはありませんでした。
詩集も、沢山ありました。
そんな、空想の世界へとたっぷり浸ることのできる雪菜さんの家は、わたしにとって、いつも、特別な場所でした。
父が、退屈な日常から夢の世界へと、わたしを連れ出してくれる、お城のようなところ。
雪菜さんは、そんなわたし達を迎えてくれる、美しい王女様。
もちろん、ナツメ。
幼いわたしには。
父と雪菜さんが二階で何をしていたのかなど、知ることは、なかったのです。