ナツメ
わたしが父と雪菜さんの秘密を知ることになったのは、もちろん、その、ずっとずっと後のこと。
母が、半狂乱になって、家を出てしまってからのことです。
ナツメ。
けれども、わたしは。
わたしの家族をバラバラに引き裂いてしまったはずの雪菜さんを、これっぽっちも、恨んでなどいません。
それどころか、ナツメ。
捨てられてしまった母の方が、ずっと、惨めで、みっとなくて。
わたしには我慢ができなかったのです。
あなたのように、凛と美しかった、雪菜さん。
真新しいドレスが、似合っていた雪菜さん。
優しい眼差し。
完璧な、身のこなし。
わたしが、憧れてやまなかった、一番近くに居た、大人の女性。
わたしは今でも、時々。
雪菜さんに会いたいとすら、思うことがあるのです。