ナツメ
ナツメ。
けれども。
それからのことは、あまり語りたくありません。
母を捨てた父は。
娘であるわたしを捨てることににも、それほど躊躇うことはなかった。
それだけのことです。
わたしの記憶の中には、玄関にきちんと揃えられた赤いハイヒールが。
同じ色のエナメルが。
薔薇の香りの香水が。
いつまでも、微かな棘を持ちながら住み続けています。
母の、薄汚い。
くすんだオレンジ色の、エプロンの記憶と一緒に。