ナツメ
少しでも栄養のつくものをと思って、と言って。
春樹さんは、よく醤油味の染みた茹で玉子を二つ、そのおみやげと一緒に、持っていらっしゃいました。
わたしは、可笑しくて。
何がって、ナツメ。
あの、春樹さんが、端正な顔に似合わず、大口を開けて茹で玉子を頬張るのですから、その、子供のような仕草が、あまりにも可愛らしくて。
クスクスと笑ってるうちに、ほら、ほら、と彼に勧められて。
病院の中庭で、二人、ベンチに座って、笑いながら茹で玉子を食べたのです。
ナツメ。
玉子など、口にしたのは。
いったい、いつぶりでしょう。
そうして、わたしが、モゴモゴといつまでも口の中に残る黄身にむせて、しばらく、咳をしていると。
「ほら、れんちゃん、幼い命を食らうのは、やっぱりとても、苦しいだろう」と、
もっともらしい口調で春樹さんが言うので、わたしはまた、可笑しくて。
ナツメ、きっと、それは、冗談ではないのだけれど。
見上げた春樹さんの眼差しは優しくて、その頭上に広がる空は、あまりにも穏やかで。
わたしは、いつまでも、笑いが止まりませんでした。