ナツメ





5月2日、木曜日




ナツメ。


新緑が眩しい季節になりました。


町を照らす陽射しは、柔らかさの中に芯のある
暖かみを含み始めています。


5月は、央介さんが、一番好きだった季節です。

あの人は、こんな陽射しの中で本を貪る一人の時間を、とても愛していました。


前のページに記した彼の詩は、まるでこの季節のことを想っているようですね。







ナツメ。


央介さんの部屋から、膨大な数の原稿用紙が見つかりました。



それはきちんと整理されていて。
一枚一枚に、あの人の生命体のような文字が敷き詰められていました。


長い長い、長編小説が10作。
それよりも少し短い、中編小説が8作。
短編は、数え切れないほどありました。


彼の人生において、最も重きを置いていた創作の集大成。


それらは、まるで隠されるように、ひっそりと物置の奥に積み重ねられていました。


わたしは、それらを一つ一つを手に取り、それからの日々を費やしています。






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