ナツメ
ナツメ。
央介さんが綴った文字達は、重力を持ち、温度をも含み、わたしの中にしとしとと落ちてきます。
わたしに、心というものがあるとするならば、確かに、間違いなく、そこに。
今、読んでいるのは、「うたかたの彩」という恋愛小説です。
そう、ナツメ。
あなたも驚いたでしょう?
あの央介さんが、恋愛小説を書いていたのです。
夫と子供が居ながら、若い医学生さんと恋に堕ちてしまう、桜子という女性のお話。
そうね、ストーリーは少し、ありがちなような気もします。
けれども、ナツメ。
桜子の揺れ動く繊細な心は、本当によく描かれています。
わたしの心は、桜子と一緒に、大きく動かされ、じわじわと熱を持ち、ピリピリと音を立てて痛み。
気がつけば、桜子と同じように、まるで金属のように冷たく堅い、医学生の彼に、恋をしてしまうのです。