ナツメ
その、巧みな、文字によって浮かび上がる、感情の構造物。
まるで、繊細なガラスで、精巧に立てられた、揺るぎない建造物のよう。
ナツメ。
わたしは、央介さんの才能の前に、何も言葉が出ませんでした。
自分の凡庸さに、くらくらと目眩がしました。
彼の肉体の内側に秘めていた渦は、ここでこうして、とてつもない形になっている。
完璧に。
完成されている。
ゾッとしました。
あの人が生きながら織り成したこの宝物達を、この手中に納めながらただひたすら涙を流しました。
ナツメ。
わたしは、今まで。
あの人の。
いったい何を見てきたのでしょう。