月宮天子―がっくうてんし―
一はバツが悪そうに笑っている。
その笑顔を愛子は不思議な気持ちで見つめていた。最初に会ったとき感じた、瞳に宿っていた暗い影がすっかり消えている。
ひょっとして宝玉の効果かな? そんな風に思う愛子だった。
その後、香奈は他の子供達もいるからと、西園家をあとにした。一も連れて帰ろうとしたのだが、本人が嫌がり……。
佐々木警部が「私が『わかば園』まで送ってあげよう」と言い出してくれ、香奈は警部に感謝しつつ、ひとりで引き上げたのだった。
四人になり例の事件のことを話し始め、警部はしみじみと口にする。
「そうか……でも、よく平気だったね。愛子くんの学校の先生は、まだ入院しているんだろう?」
養護教諭の市村である。
彼女はつい先日意識が戻った。生命の危機は脱したと聞き、愛子もホッとひと息だ。
でも、丸っきり記憶がないらしい。「一生思い出さないほうが幸せかも」と海は言い……愛子もうなずいた。
「あのときのことは、なんかよく覚えてねぇんだけどさ……すっげぇ憎くてムカついて、でも、なんにムカついたのかもわかんねぇの。気がついたら海が真っ裸で俺に抱きついててさ。よかった、よかったって泣いてるし」
「あんた、カイの左手に噛み付いたんだからね」
「んなこと、覚えてねぇつうの。オバサン、しつこいぜ」
「誰がオバサン! 十八歳の女子高生にオバサンって何よ! 香奈先生のほうがよっぽどオバサンじゃない!」
「香奈先生は香奈先生なんだよ。うっせーんだよ、オバサン」
その笑顔を愛子は不思議な気持ちで見つめていた。最初に会ったとき感じた、瞳に宿っていた暗い影がすっかり消えている。
ひょっとして宝玉の効果かな? そんな風に思う愛子だった。
その後、香奈は他の子供達もいるからと、西園家をあとにした。一も連れて帰ろうとしたのだが、本人が嫌がり……。
佐々木警部が「私が『わかば園』まで送ってあげよう」と言い出してくれ、香奈は警部に感謝しつつ、ひとりで引き上げたのだった。
四人になり例の事件のことを話し始め、警部はしみじみと口にする。
「そうか……でも、よく平気だったね。愛子くんの学校の先生は、まだ入院しているんだろう?」
養護教諭の市村である。
彼女はつい先日意識が戻った。生命の危機は脱したと聞き、愛子もホッとひと息だ。
でも、丸っきり記憶がないらしい。「一生思い出さないほうが幸せかも」と海は言い……愛子もうなずいた。
「あのときのことは、なんかよく覚えてねぇんだけどさ……すっげぇ憎くてムカついて、でも、なんにムカついたのかもわかんねぇの。気がついたら海が真っ裸で俺に抱きついててさ。よかった、よかったって泣いてるし」
「あんた、カイの左手に噛み付いたんだからね」
「んなこと、覚えてねぇつうの。オバサン、しつこいぜ」
「誰がオバサン! 十八歳の女子高生にオバサンって何よ! 香奈先生のほうがよっぽどオバサンじゃない!」
「香奈先生は香奈先生なんだよ。うっせーんだよ、オバサン」