月宮天子―がっくうてんし―
白露は翼を閉じたまま、鋭い目を愛子に向けている。
「あなた……生きてたんだ」
「勝手に殺すんじゃないよっ」
「だって、しばらく見掛けないから。もう死んじゃったんだと思ってたのに。ねぇ、今日は『お水の花道』みたいなお姉さんには化けないの?」
「簡単に言うんじゃないよ! アレはあたしらにゃ、大変なんだからね」
「へぇ。そうなんだ」
愛子は素直に感心する。
やっぱり思ったとおりだ。獣人族は人間ではなく、人間に化けられる獣に間違いない。じゃあ、ずっと人間でいられる海がこいつらの仲間のはずがない。
「ねえ、大鷲のお姉さん、ここってどこなの? それに、わたしをどうする気?」
愛子の問いに、白露はフフンと鼻を鳴らし、顎……というか、嘴を上げてみせた。どうやら、羽も広げて威嚇したいらしい。
だが、愛子が目覚めたこの場所は、天井も高くなく、さほど広くもない。山の中に建てられた丸太小屋みたいだ。
よくぞ、このヒグマが入ったものだと思う。
当然、羽を広げるスペースもない。
「ここは、千並湖だよ。じきに『月宮天子』が迎えに来るからね。そうしたらふたりで仲よく……あの世に行っちまいな」
白露は頬を歪ませてニヤッと笑った。
いや、どの部分が頬か愛子にもよくわからないが……とにかく、そんな風に感じた。
「あなた……生きてたんだ」
「勝手に殺すんじゃないよっ」
「だって、しばらく見掛けないから。もう死んじゃったんだと思ってたのに。ねぇ、今日は『お水の花道』みたいなお姉さんには化けないの?」
「簡単に言うんじゃないよ! アレはあたしらにゃ、大変なんだからね」
「へぇ。そうなんだ」
愛子は素直に感心する。
やっぱり思ったとおりだ。獣人族は人間ではなく、人間に化けられる獣に間違いない。じゃあ、ずっと人間でいられる海がこいつらの仲間のはずがない。
「ねえ、大鷲のお姉さん、ここってどこなの? それに、わたしをどうする気?」
愛子の問いに、白露はフフンと鼻を鳴らし、顎……というか、嘴を上げてみせた。どうやら、羽も広げて威嚇したいらしい。
だが、愛子が目覚めたこの場所は、天井も高くなく、さほど広くもない。山の中に建てられた丸太小屋みたいだ。
よくぞ、このヒグマが入ったものだと思う。
当然、羽を広げるスペースもない。
「ここは、千並湖だよ。じきに『月宮天子』が迎えに来るからね。そうしたらふたりで仲よく……あの世に行っちまいな」
白露は頬を歪ませてニヤッと笑った。
いや、どの部分が頬か愛子にもよくわからないが……とにかく、そんな風に感じた。