月宮天子―がっくうてんし―
「千並湖? なんでそんな……第一、なんでカイを『月宮天子』って呼ぶの? カイは普通の人間でしょ?」
「馬鹿言ってんじゃないよ。宝玉を手に獣化しないの宮殿の巫女か『月宮天子』だけさ。他はあたしら獣人族でもこの『月光布(げっこうふ)』がなきゃ。玉に心臓を止められちまう」
白露は白い布をひらひらさせた。
そう言えば、同じような生地の手袋を蓮が嵌めていた。そうか、だから蓮は獣化しなかったんだ。と改めて納得する。
「ねぇ……宝玉が月島からなくなったら、瀬戸内の島が沈むんでしょう? 獣人族の結界もなくなって自由になれるんなら、なんでムキになって宝玉を追いかける訳? あんたたちにとっても危険な玉なら、放っておけば?」
「うるさい小娘だねっ! だから『月宮天子』が邪魔なんじゃないか! 奴が来なきゃ、あたしがあんたを喰ってやるよ。今度は、目玉を真っ先にねっ!」
愛子には、その『月宮天子』がわからない。
あの朔夜は『月宮天子』に“様”を付けて呼んでいた。朔夜たちは海が獣人族だと思い、獣人族は『月宮天子』だと思っている。
しかも、あの宝玉は『月宮天子』様から賜ったと言っていた。
でも、朔夜の言葉を信じるなら、海の父親は雪豹に姿を変える獣人族で、母親は朔夜と同じ。朔夜と海は父親の違う兄妹。
……うーん。考えれば考えるほどこんがらがってくる。、
そのとき、ピシャンと水が跳ねる音がした。小屋を見回すと、両開きの扉があり、天泉がそれを押し開けている。
扉の向こうにボートが見えた。
ここが白露の言うとおり、千並湖であるなら、湖畔のボート小屋に違いない。愛子のいる場所は、休憩所か待合所として使われていたのだろう。
今はもう朽ち果てて、何年も人の出入りはなさそうな建物だった。
「馬鹿言ってんじゃないよ。宝玉を手に獣化しないの宮殿の巫女か『月宮天子』だけさ。他はあたしら獣人族でもこの『月光布(げっこうふ)』がなきゃ。玉に心臓を止められちまう」
白露は白い布をひらひらさせた。
そう言えば、同じような生地の手袋を蓮が嵌めていた。そうか、だから蓮は獣化しなかったんだ。と改めて納得する。
「ねぇ……宝玉が月島からなくなったら、瀬戸内の島が沈むんでしょう? 獣人族の結界もなくなって自由になれるんなら、なんでムキになって宝玉を追いかける訳? あんたたちにとっても危険な玉なら、放っておけば?」
「うるさい小娘だねっ! だから『月宮天子』が邪魔なんじゃないか! 奴が来なきゃ、あたしがあんたを喰ってやるよ。今度は、目玉を真っ先にねっ!」
愛子には、その『月宮天子』がわからない。
あの朔夜は『月宮天子』に“様”を付けて呼んでいた。朔夜たちは海が獣人族だと思い、獣人族は『月宮天子』だと思っている。
しかも、あの宝玉は『月宮天子』様から賜ったと言っていた。
でも、朔夜の言葉を信じるなら、海の父親は雪豹に姿を変える獣人族で、母親は朔夜と同じ。朔夜と海は父親の違う兄妹。
……うーん。考えれば考えるほどこんがらがってくる。、
そのとき、ピシャンと水が跳ねる音がした。小屋を見回すと、両開きの扉があり、天泉がそれを押し開けている。
扉の向こうにボートが見えた。
ここが白露の言うとおり、千並湖であるなら、湖畔のボート小屋に違いない。愛子のいる場所は、休憩所か待合所として使われていたのだろう。
今はもう朽ち果てて、何年も人の出入りはなさそうな建物だった。