月宮天子―がっくうてんし―
  *


「宝玉は我らが王、波旬様の持ち物。我らはそれを取り戻す。紅玉は月島の巫女が、大蛇から取り出し持ち去った。黄玉と碧玉は明治郷で再び行方を見失ったが……翠玉はこうして天泉が取り戻した」


氷月に褒められたのが嬉しいのか、ヒグマの天泉は嬉しそうに鼻を鳴らす。


「と、取り戻してどうするの? それにここに『月宮天子』を呼んだって」


愛子はこの氷月相手にだけは軽口が叩けない。怖いのだ。


「私がなぜ若様と呼ばれているかわかるか? 私は波旬様の直系――宝玉が大神島に戻れば波旬様が蘇る。私の中に、な」


氷月は不気味に笑った。


「ああ『月宮天子』か。宝玉は我が王を裏切り『月宮天子』に味方した。とくに月光玉は姿も見せぬ。奴は餌だ。宝玉を呼び寄せるためのな」


(そうなんだわ! だからあのとき、宝玉が嬉しそうに見えたんだ!)


宝玉は海を見つけて……『月宮天子』を見つけて転がってきた。


最初の北案寺の事件も、高校の近くでも、明治郷のときも、宝玉は海の下に集まってきていたのだ。


助けに来て欲しい。でも、海じゃこいつには勝てない。

きっと、宝玉を奪われ殺される。


(ど、どうしよう、どうしたらいいの?)


ようやく事態の深刻さに気づき、真剣に悩み始める愛子だった。


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