月宮天子―がっくうてんし―
やがて周囲は真っ暗になった。

とくに朽ち果てたボート小屋になど電気は通っていない。とりあえず、真夏でよかったと愛子は思った。真冬だったら助けが来る前に凍死しているだろう。


小屋に居るのは白露だけだ。

流火は目を覚ましたときにはいなかったし、氷月と天泉はすぐにどこかに行ってしまった。

白露は大怪我をしているはずだ。ひょっとしたら、今なら逃げられるかも……そう思ったときだった。


「おーや。お迎えだよ。でも、お目当ての男じゃないねぇ」


その言葉に愛子は窓に飛びつく。

背後の森から姿を見せたのは、光崎蓮である。


(なんで? なんでカイじゃなくて蓮なの? どうしていざってときに助けに来るのはあの男なのよっ! カイは何やってんのよ、バカッ!)


「許婚の巫女さまを放り出して、あんたを助けに来るなんてさ。こんな色気のないガサツ女のどこがいいんだろうねぇ」


白露の言い様は、まるで蓮が愛子に気があるみたいだ。


「でも、馬鹿な男だね。ノコノコ罠に掛かりに来るなんて」


愛子は窓をぶち割って蓮に危険を知らせようとしたが……。


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