月宮天子―がっくうてんし―
***
「好きって言ったくせに! 好きな女の子より、妹を選ぶ男ってどうよ。カイの馬鹿っ。シスコン野郎!」
事件が嘘のように起らなくなり、戒厳令一歩前の状態は日常に戻った。
犯人は逮捕されてないので、相変わらず警察は忙しい。と、昨日電話で佐々木警部は言っていた。
警部も、有休を使いきりしだい早期退職する予定が、結局来春まで延びたそうだ。
デスクワークだけどね、と笑っていた。
あの夜、氷月らは蓮と朔夜に呼び出しを掛けたらしい。愛子の「マブダチ」を真に受けたせいだった。
そして、海が『月宮天子』だとふたりは知り……。
蓮は力ずくで朔夜を制止して、愛子を助けに向かったという。
残された朔夜は『紅玉』を使って海を見つけ出したそうだ。その海と朔夜を、車でダムの入り口近くまで送ってくれたのが警部だった。
警部は、愛子らが戻って来るまでジッと同じ場所で待っていてくれた。
そして四人の姿を見るなり、泣き笑いを浮かべた警部の顔を、愛子は一生忘れないつもりでいる。
一は、獣人族との最終決戦があったと聞くと、「なんで俺も連れてってくれねぇんだよ! グレてやる!」と叫んでいた。
顔を合わせると愛子とは喧嘩ばかりだが……。つい先日、一緒に明治記念公園のプールに泳ぎに行った。
海がいなくなって落ち込む愛子を、一と香奈で一生懸命慰めてくれている。どうやら、せめてもの罪滅ぼしのつもりらしい。
愛子が海を探して『わかば園』を訪れたとき、なんと海は壁の向こうにいたのだという。
「ごめんなさい。本当に、なんと言ってお詫びしたらいいのか」
香奈が心底申し訳なさそうに言うので、愛子も怒ることができなかった。
「好きって言ったくせに! 好きな女の子より、妹を選ぶ男ってどうよ。カイの馬鹿っ。シスコン野郎!」
事件が嘘のように起らなくなり、戒厳令一歩前の状態は日常に戻った。
犯人は逮捕されてないので、相変わらず警察は忙しい。と、昨日電話で佐々木警部は言っていた。
警部も、有休を使いきりしだい早期退職する予定が、結局来春まで延びたそうだ。
デスクワークだけどね、と笑っていた。
あの夜、氷月らは蓮と朔夜に呼び出しを掛けたらしい。愛子の「マブダチ」を真に受けたせいだった。
そして、海が『月宮天子』だとふたりは知り……。
蓮は力ずくで朔夜を制止して、愛子を助けに向かったという。
残された朔夜は『紅玉』を使って海を見つけ出したそうだ。その海と朔夜を、車でダムの入り口近くまで送ってくれたのが警部だった。
警部は、愛子らが戻って来るまでジッと同じ場所で待っていてくれた。
そして四人の姿を見るなり、泣き笑いを浮かべた警部の顔を、愛子は一生忘れないつもりでいる。
一は、獣人族との最終決戦があったと聞くと、「なんで俺も連れてってくれねぇんだよ! グレてやる!」と叫んでいた。
顔を合わせると愛子とは喧嘩ばかりだが……。つい先日、一緒に明治記念公園のプールに泳ぎに行った。
海がいなくなって落ち込む愛子を、一と香奈で一生懸命慰めてくれている。どうやら、せめてもの罪滅ぼしのつもりらしい。
愛子が海を探して『わかば園』を訪れたとき、なんと海は壁の向こうにいたのだという。
「ごめんなさい。本当に、なんと言ってお詫びしたらいいのか」
香奈が心底申し訳なさそうに言うので、愛子も怒ることができなかった。