月宮天子―がっくうてんし―
***
「帰って来るなら帰って来るって言ってよ!」
「帰って来るに決まってるだろう? だって九月から幼稚園の先生になるのが決まってるんだよ」
ふたりは北案寺の中にある御影石のベンチに腰掛け、こそこそと話をしている。
出入り禁止の海を、家に連れて帰る訳には行かない。ベンチは木立の中にあり、一番近くで人目につかず話せる場所はここしかなかった。
「……二度と帰って来ないんだって思ってた」
「愛ちゃん」
「だって……朔夜さんのほうを選んだんだとばかり」
「選ぶも何も、妹と愛ちゃんは違うよ」
「カイ……」
海は急に無口になり、愛子の瞳をジッと見つめる。
そして――少しずつ、ふたりの顔が近づき、愛子はそっと目を閉じた。
「愛ちゃん。本当に見えなかった?」
「はい?」
「帰って来るなら帰って来るって言ってよ!」
「帰って来るに決まってるだろう? だって九月から幼稚園の先生になるのが決まってるんだよ」
ふたりは北案寺の中にある御影石のベンチに腰掛け、こそこそと話をしている。
出入り禁止の海を、家に連れて帰る訳には行かない。ベンチは木立の中にあり、一番近くで人目につかず話せる場所はここしかなかった。
「……二度と帰って来ないんだって思ってた」
「愛ちゃん」
「だって……朔夜さんのほうを選んだんだとばかり」
「選ぶも何も、妹と愛ちゃんは違うよ」
「カイ……」
海は急に無口になり、愛子の瞳をジッと見つめる。
そして――少しずつ、ふたりの顔が近づき、愛子はそっと目を閉じた。
「愛ちゃん。本当に見えなかった?」
「はい?」