月宮天子―がっくうてんし―
「きゃあぁっ!」


バッシーンと、愛子は思わず海の頬を張り飛ばしていた。

海は訳がわからないらしく、頬を押さえ呆然としている。

だが、その理由を佐々木警部が遠回しに教えた。


「君……着替えはないのかね?」

「え? えっとバッグに入ってると……あ」


海のバッグは最初の化け物警官によって引き裂かれ……中身はメチャクチャになっていた。

愛子が海から視線を逸らしたとき、次々に、あちこちの家の窓に灯りが付き始めた。さすがに、この騒ぎを聞きつけたらしい。


「まずいな、そのカッコじゃ」


海の体は全身の緑が消え、背も縮んで人間の肌に戻っている。そして下を向いた海もその状態に気づいたようだ。


「う、うわっ!」


海は慌てて股間を隠す。

だが、当然のようにお尻は丸出し……。

警官の死体が幾つも転がり、その中で全裸など正気の沙汰じゃない。公然猥褻罪で捕まるくらいでは済まないだろう。

アタフタとする海と愛子を助けてくれたのは佐々木警部であった。


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