月宮天子―がっくうてんし―
“高等学校卒業程度認定試験”を受けたあと、父の大学を受験。見事合格して、小・中と教諭一種免許を取ったという。でも、地元の教員採用試験は全部アウト。で、父の勧めで都内の臨時採用に引っ掛かった、と。


「でも、何も生活の面倒まで見なくてもいいでしょ? 大学出た男なら、アパートでも借りてひとりで」


『ピピピピッ、ピピピピッ』


司会者の毒舌が売りの朝のニュース番組が、緊急速報を告げた。パッと画面が切り替わり、難しい顔をしたアナウンサーが映し出される。


『――ここで臨時ニュースです。本日未明、JR青梅線東綾辺駅南側、明治公園内で四人の変死体が発見されました。遺体は損傷が酷く、年齢性別は不明、現在、所持品にて身元を確認中との発表です。この一週間で都内では既に三十人を超す被害者が出ており…………警察では付近住民に注意を呼びかけています』


「怖いわねぇ。すぐ近くじゃない。今月に入ってからいったい何が起こってるのかしら? ねえ、あなたたちも学校が終わったら、すぐに戻るのよ。愛ちゃんは、夏休みまであと一週間もないんだから」

「あたしは就職活動でそんなにのんびりしてられないわ。ちゃんと情報を集めないと。免状をとっても教員に採用されなかったら意味ないもの」

「わたしだって受験生なんだからね。夏休みったって補習だし、塾もあるし……」


世間では、真面目な姉と要領のいい妹、という図式が多いと言う。だが、我が家にいたっては逆である。

要領のいい姉は、愛子よりはるかに自由度が高い。


「とにかく、その人は少林寺拳法の大会で優勝したこともあるくらい達人なんですってよ。お父さんにしたら、ボディガードの意味もあるんじゃないかしら?」

「というより、番犬じゃない?」

「まあ、そうかもしれないわね」


姉の言葉に母も同意し、たった今のニュースなんか忘れたように、ふたりは笑うのだった。


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