月宮天子―がっくうてんし―
「セ、センセ? 市村……センセ? わかります? 西園ですけど……」


愛子は、意思の疎通を図ろうと声を掛けてみた。

だが、大蛇は赤い舌をチョロチョロ出して、少しずつ愛子に近づいてくる。どう見ても、愛子には大蛇が「食べる気満々」に見えた。


「わ、わたしはちょっと大きいんじゃないかなぁ。あの、近くの犬とか、小学校の鶏とかのほうが、センセの口に合うんじゃ……」


シャァーッ!


口を大きく開けて愛子に飛びつく態勢だ。もう、これ以上の説得は不可能だと愛子は思った。愛子は、ギュッと目を閉じる。


(カイ、カイ、カイ……二度とミドリムシなんて言わないから助けて!)


心の中で、そう唱えたときだった。


シャァーッ!


再び大蛇の威嚇が聞こえたとき、愛子と大蛇の間に立ちはだかり、必死に大蛇の口を押さえる人物が――海だ。


「カイッ!」

「愛ちゃん。逃げるんだ。そこの窓から」


もちろん、愛子にも充分乗り越えられる窓だ。保健室は一階で窓の外は植え込み。どうやら、海もそこから飛び込んで来たらしい。


『ピンポンパンポーン! 補習中の全生徒・教師に連絡です。近隣にて殺人事件が発生しました。すべての作業を中断し、早急に体育館に集まってください。単独行動は避け、教師の指示に従ってください。これは訓練ではありません。繰り返します――』


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