月宮天子―がっくうてんし―
甲高い声を上げながら、白露は海に突っ込む。どうやら目を狙っているらしい。

翼開長(よくかいちょう)三メートルはありそうな大きさだ。その大きさの鳥に、この速さでぶち当たったら、普通の人間ならひと溜まりもない。

そのとき、愛子はハッと気が付いた。

このバサッという音と大きさ、あの北案寺の境内からホワイトタイガーを連れ去ったのは……。


「カイッ! 空に連れて行かれたらおしまいよ!」


その瞬間、海の体に大きな鉤爪が食い込んだ。


「カイーッ!」


愛子は悲鳴を上げたが……どうやら、海が捕まったのではなく、捕まえたらしい。

海は、ガッと白露の足を掴み、校舎の屋上に踏ん張る。


「往生際が悪いんだよぉ~。キェー!」


だがその瞬間、グッと溜めを作り、左足で廻し蹴りを決めた。

でも、それだけじゃ白露はびくともしない。力比べなら絶対に負けそうだ。愛子がそう思ったとき、海は一気に爪の一本を取り、捻り落とした。そして、体重を掛け押さえ込む。

辺りに鈍い音が広がった。

それは骨が砕けるような音だ。愛子は思わず耳を押さえる。直後、ガラスを爪で引っ掻くような白露の悲鳴が、校舎全体を揺るがす。


「ギェーッ! ギーギー」


少しずつ白露の抵抗は弱まり、悲鳴も小さくなり、やがて、動きが止まったのだった。


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