月宮天子―がっくうてんし―
そのとき、母がようやく重い口を開いた。


「とにかく、お父さんには黙っておきましょう。私たちを気遣って、寄越してくれた教え子と娘が、なんて……ショックでしょうから」


少しくらい言い訳をしようと愛子が口を開こうとしたとき、横から海が言った。


「申し訳ありませんっ! でも、本当に妙な真似をしようとした訳ではないんです!」

「そっ、そうよ。ホント、風でヒラヒラ~と」


愛子が言い始めた途端、母はジロッと睨んだ。そんなに苦しいかな? と海を見る。海は困ったように笑うだけだ。


「愛ちゃんは十八歳だし、条例違反じゃないわね……。でも海くん、こんなことが公になったら、臨時採用も見送られるかもしれないわ。あなたはいい子だし、出生のことも気にしてないけど……」


そこで母は一旦言葉を区切り、あらためて、意を決したように口を開いた。


「これだけは守ってちょうだい。高校卒業までは、避妊は怠らないようにね」


(さ、最近の中学教師の心配は、ソコに行くの?)


愛子は面食らって言葉が出て来ない。

海も同じだろうと、と思った瞬間、なんと、バッと両手を突いて頭を下げたのだ。


「はいっ! わかりました。――万一のときにはちゃんと責任を取ります!」


海は信じられないことを叫び、愛子は気が遠くなった。


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