月宮天子―がっくうてんし―
  *****


「そ、それは災難だったね」


真夏だというのにホットコーヒーを飲みながら、佐々木警部は苦笑しつつも同情してくれた。

海が母の前で、意味不明な交際宣言をした翌日のこと。

ふたりは綾辺市の隣にある笠川市(かさがわし)に来ていた。愛子の通う桜開塾(おうかいじゅく)が笠川駅前にあるからである。

今朝早く、警部から海の携帯に連絡があった。「退院したので会えないか?」と。話しておきたいことがある、とも言われ、笠川駅前のカフェで待ち合わせをしたのだった。


「変身解除で全裸になるのだけは勘弁して欲しいです。洋服代も馬鹿にならないし……」


実は、海はまだ変身中に自分がフルチンで戦っていることを知らない。

知ったらとても、開脚で回し蹴り! なんてできなくなるだろう。警部と愛子がコソッと視線を合わせ、無言でうなずいたことに海は気づかなかった。


「お待たせしました」


夏らしいレモンイエローのミニスカートを穿いたウェイトレスが、アイスコーヒーをふたつ運んでくる。

多分女子大生だろう。愛子も、大学生になったらバイトしたいな、結構可愛いユニフォームじゃない、と思って見ていた。

アイスコーヒーはあとから来た愛子と海の分だ。

最初に手前の海の前にレースのコースターを敷きアイスコーヒーを置いた。問題はそのあとである。

愛子の前に置くとき、ウェイトレスが身を乗り出したのだ。

その瞬間、シャツの衿が大きく開き、ピンクのブラと白い谷間が見えた。


(何? このウェイトレス!?)


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