月宮天子―がっくうてんし―
ムカッとした愛子の横で、海もウェイトレスの胸元を凝視している。

そんな海を見て、ウェイトレスはクスッと笑ったのだ。


「見せブラでもないのに、下着が見えるような服って、ダサッ」


愛子は超真面目に制服姿である。でも愛子の言葉に、海は慌てて視線を逸らした。


「ごゆっくりどうぞ。失礼致します」


フンっと横を向きつつ、頭を下げて立ち去った。もちろん、伝票を置くのも忘れずに。


「ちょっとカイ、片っ端から色目使うのやめてよね!」

「俺じゃないよ。あっちが……そうですよね、佐々木警部?」

「まあまあ。その、愛想のいい辺りが、女の子にモテるんだろうねぇ。いやぁ、羨ましい」


還暦間近の警部がどこまで本気かわからないが、とりあえず場を和ませるために言ってくれたのだろう。


「お母さんに、あんな風に言ったのはカイなんだからね。ちゃんと、責任取ってよねっ!」

「……子供ができたら?」

「バカッ! そんなことしてないでしょ! 付き合ってるみたく言った以上、お姉ちゃんとか、他の子と変なことしないでって言ってるの!」


間違っても自分から”好き”とかは言えない。助けに来てくれてありがとう。カッコよかったなんて死んでも言えないのが愛子の性格なのだ。


「ま、痴話喧嘩はその辺にして……実は君たちに話しておきたいことがあるんだが」


そう言って佐々木警部は話し始めた。


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