月宮天子―がっくうてんし―
先週末、愛子と海が警察病院の佐々木警部を見舞ってすぐのことである。

警部の元に、見覚えのない見舞い客が訪れた。


「つい先日、兄が家を出まして、その際に、我が家の家宝を無断で持ち出しました。東京に出て来た所まではわかったのですが……。一連の事件に巻き込まれ行方不明になったのでは、と身を案じております。何か手掛かりを、と思い、こうして訪ねて参りました」


主に口を開くのは十代に見える少女で、月輪朔夜(つきわさくや)と名乗った。

少女は、背の高い、ガタイのいい青年を後ろに引き連れている。彼は遠い親戚のひとりで、未成年の自分の保護者として付いて来てくれたのだ、と話した。


「身内は兄と年老いた祖母のみ。祖母は兄の所業に寝込んでしまいました。なんでも構いませんので、お教え頂けませんでしょうか?」


口の利き方は丁寧である。だが警部には、彼女の「兄」と言う口調に違和感を覚えた


「いや、お力にはなりたいが……。警察に捜索願いは出されましたかな?」

「お恥ずかしいことに、兄は家の事情で他家の実子となっており、戸籍上は赤の他人なのです。明らかにすることは祖母の寿命を縮めるやも知れません。どうか……」


そう言って、少女は一枚の写真を差し出した。

それを見た瞬間――警部は動揺を隠し、必死で平静を装った。


写真には、五個の玉が写っていた。四隅に、緑・黄・青・赤、そして中央に白い玉が置かれている。このうちの二個、緑と赤は、明らかに警官を狼とゴリラに変化させた宝玉に違いない。

玉は五個もあるのだ。この玉を捜す少女らはいったい……。


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