月宮天子―がっくうてんし―
「写真には確かに五個の玉が写っていた。あのお嬢さんは、月輪家の家宝とか言っとったな。――で、私なりに考えたんだが。例の女教師が生き残ったということは、玉が出て来るのを待ったんじゃなくて、誰かが心臓が止まる前に取り出したんじゃなかろうか?」

「それは……あの近くにいた、もの凄くカッコいい男の人ってこと?」


ついつい愛子は喧嘩腰に嫌味っぽく言ってしまう。


「獣人族と敵対する、人間の敵かもしれない訳だよね。簡単に気を許すのはどうかな?」


愛子は海の口調にびっくりした。短い付き合いではあるが、海が人を悪く言うとこなんて見たことない。

いや、まあ……人かどうかは現時点では不明だけど。


「でも、わたしのことを助けてくれたわ!」

「俺も助けたつもりだけどね」

「カッコよさがダンチ! カイなんてミドリムシじゃない」


言ってから後悔した。ミドリムシなんて二度と言わない、って誓ったのに。

海が黙り込んだせいで、愛子も口を閉じた。ごめんなさい、がどうしても言えない。


だが、佐々木警部もダテで歳は取ってないようだ。この微妙な空気は、口を挟むと面倒なことになりそうだ、と判断したらしい。


「じゃ、そう言うことだ。私も色々考えて見るが……君らも充分に気をつけてな。あ、海くん、君は着替え一式を持ち歩いたほうが無難だな。何かわかったら、また連絡するから」


そんなことを言いつつ、警部はそそくさと伝票を手に立ち上がり、レジに向かう。


「あ、ご馳走様です」


そう言った海に、吊ってないほうの右手を軽く上げて答え、カフェを出る警部だった。


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