月宮天子―がっくうてんし―
「カイって……まさか、カナヅチ?」


拾われた場所が場所だけに、ひょっとしたらトラウマになっているんじゃ? 愛子はそんな風に考え、口にしたのだ。

だが、帰ってきた答えは意外なものだった。


「いや、泳げるよ。その……五十キロくらいなら遠泳もできる」

「くらいって。それって凄くない?」

「ん、でも正直言って好きじゃないんだ。ただ、いざってときには安心してくれたらいい」


そう言って海はニコッと笑う。


だが、そのいざってときはすぐにやって来た。


巡り合せと言うものだろうか。それとも天性のトラブルメーカーか。

海の後方で、派手な水飛沫が上がった!


愛子たちのすぐ後ろにいたのは、三人乗りのローボートだ。

中学生くらいの少女と小学校低学年くらいの男児、幼稚園くらいの男児の三人が乗っていた。


「ケンちゃん、ケンちゃん……誰か助けて、弟が」


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