月宮天子―がっくうてんし―
バッチーン! と派手な音がして……海の裸の背中には真っ赤な手形が!


「カ、カイッ!」


周囲から「キャー」と声が上がる。


「あっと……大丈夫大丈夫」


海は少年の肩を抱き込むようにして庇った。微妙に背中を反らせつつ、口を開きかけた愛子に軽く手を上げ、大丈夫のジェスチャーをした。


「なあ、ホントはそんなこと思ってないだろ? あの男の子を助けようと、君も飛び込もうとしてた。俺にはそう見えたよ」


例のハスキー犬スマイルで海がヘラッと笑った。

しかし、女性相手には有効な攻撃も、子供相手には効果を発揮しなかったらしい。


「うっせぇ! フルチン変態野郎!」

「えっ?」

「カイ……タオル、落ちてる」


さっき愛子が言いたかったのはコレである。

背中を叩かれた拍子に腰に巻いたタオルが外れて……。

周囲にいたうら若き女性は頬を染め、若くない女性は一部分を凝視し、男性はなぜかニヤニヤしていた。

海がハッと下を向いた瞬間、少年は海の股間を思いっ切り蹴り上げたのである。


「離せよ。バーカ!」


目を白黒させ飛び撥ねる海を突き飛ばし、少年は人ごみを掻き分け走り去った。


< 85 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop