月宮天子―がっくうてんし―
普通郵便で発送可能な最大サイズの封筒である。でも『普通』で送ると呼び出しを喰らうだろう。『現金書留』が相応な中身だとすぐにわかった。


「些少ですが――御礼と、クリーニング代にして頂けましたら」

「いえ、そんなっ」


断わろうとした海の横から、


「すみませんっ。一君が大変失礼なことをしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。充分に注意しているつもりなのですが……どうぞ、お許しくださいっ!」


今度は、端に座っていた二十代の女性が突然頭を下げる。


彼女は、児童養護施設『わかば園』の職員で安西香奈(あんざいかな)といった。

清楚で可憐、白のブラウスと踝辺りまでのロングスカートがそれをかもし出している。更に、後ろでひとつに縛った髪も、踵の低い靴も……まるで修道女のようだ。


「あの、お怪我はなかったでしょうか? 一君が……大切な場所を蹴ったと聞き、後遺症とか、そういったことになったら、と。本当に申し訳ございません」


ピンクに頬を染めながら、香奈は膝に両手を置き、おでこがつくまで下げたのだった。


「あ、あの……本当に、大したことはありませんから」


そんな香奈を見ながら、照れた素振りで答える海に、愛子はムカッとする。


「そうです。元々大したモノじゃありませんし。それに、使用には全っ然問題ありませんからっ!」

「愛ちゃん!?」


この爆弾発言で、海はまたまた愛子の母、友子から説教を食らうことになったのである。


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