月宮天子―がっくうてんし―
昨日の月曜日から補習が再開した。やはり、化け物が出ても受験はなくならない、といういい証拠だろう。

だが、学校に行くなり、


「愛もやるじゃん! 屋上エッチなんて」

「愛の彼氏って大胆なんだ!」


と、学校中の噂の的である。

これまで、できる限り周囲に迎合して、目立たずやって来たのが水の泡だ。

もちろん、海が悪い訳ではない。でも、ついつい当たってしまう。愛子自身も気付かぬうちに、海に甘えていた。



「まあ! わざわざありがとうございます!」


香奈が嬉しそうな笑顔で走り寄った。

今日は、淡いブルーのジャージに上靴だ。百均Tシャツとスーパーで買った激安ジーンズが定番の海とは、かなりお似合いだろう。


「愛子さんも、わざわざすみません。でも、一君に誰かが訪ねて来るなんて……初めてで……わたし」


そう言うと香奈は涙ぐんだ。

本当に優しくていい人なのだろう。海があたふたとしてハンカチを差し出すのを、愛子はどこか切ない思いで見つめていた。


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