月宮天子―がっくうてんし―
「皆、お前のためを思って言ってくれるんだぞ! 辛いのはお前だけじゃない。どうして、素直になれないんだ!」

「うっせぇ! 放っとけよ! 食わすのが嫌なら、メシだって抜けばいいだろっ!」


そこは一階の一番奥にある部屋だった。

入るなり怒鳴り声が聞こえる。片方は成人男性の、片方は、先日の少年の声に違いない。


「一! なんだ、その言い方はっ!」

「るせぇんだよ」


ビュン! と何かが横切り、それは白黒の塊……サッカーボールだ、ぶつかる! と愛子が思った瞬間、目の前に海が立った。

ボールは海の後頭部を直撃する。


「痛っつ」

「カ、カイ……大丈夫?」


こういう咄嗟のことが海は凄いと思う。

カッコよくないけど、本当にボディガードみたいだ。


そんなことを考える愛子の横で、香奈が声を上げた。


「まあ、なんてこと! 申し訳ありません、海さん。一君、この間のお兄さんとお姉さんが会いに来てくださったのよ。ほら、この間のお詫びと……今、ボールが当たったことも、ちゃんと謝りましょう。先生も一緒に謝るから……ね」


振り向いた少年の瞳は、先日と同じように刺々しかった。


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