月宮天子―がっくうてんし―
愛子はその様子を見ながら、別の意味でハラハラしていた。

なぜなら、獣人族は見るからに獣が人間に化けている。でも、目の前のパンダは肉食獣に変化しているとはいえ人間だ。

でも蓮は、あの『光剣』で白露を切り裂いていた。


(ま、まさか、問答無用で殺したりしないよね?)


愛子の苦悩をよそに、蓮はドンドン間合いを詰め、パンダを追い込んで行く。


刹那、蓮の持つ『光剣』がパンダの白い腹に深々と突き刺さった!


「ウ……グゥ」


パンダは仰向けに転がり、苦しそうに呻き声を上げた。


「おい。玉が飛び出すが、決して手に取るな」


蓮は、肩越しに愛子を見ながらそう言った。そして、そのままパンダの上に跨る。『光剣』を逆手に持ち替え、心臓目がけて一気に突きたてようとした。


「待って! 待ってよ、ちょっと酷くない? 人間なんだよ」

「猛獣だ」

「い、今はそうだけど。でも、宝玉のせいで……そうだ! あなた、人間に戻せるんじゃないの? だって、市村先生だってあなたが」

「違う」

「じゃあ、誰が市村先生を助けてくれたの? 何か知ってるんじゃないの?」

「間に合わん。退け!」


蓮は愛子を振り払うと――そのまま、一気に心臓を突き刺した。


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