部長とあたしの10日間
「でも、ちゃんと大人です。
やることはやれますよ」


そう言いながらあたしが腕を引き寄せると。
部長はあたしの顔をしばらく見つめた後、何の未練もなさそうに、するりとその手をほどく。


「俺を口説こうなんて、10年早い。
───今日はこのくらいにしてもう帰れ。
風邪を引かれたら面倒だ」


そして、あたしの首に、自分のマフラーを乱暴に巻いた。


つれないくせに優しいヤツめ。
その冷たくなりきれないとこが余計に厄介だってこと、自分じゃ分かってないんだわ。


「…分かりました」


これ以上迫っても逆効果だろうから諦めて頷くと。
部長はまるで計算通りとでも言いたげに、不敵に笑って見せるのがまた悔しい。


「───部長がうちまで送ってくれるなら帰ります」


「は?」


あたしの言葉に部長は頭を抱えて溜め息をつく。


「そんなことできるか」
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