部長とあたしの10日間
「分かりました。
今日のところは諦めて一人で帰ります」


あたしは殊勝な面持ちでそう言ったあと、部長が少し気まずそうな顔をするのを見計らって続ける。


「…部長は週末も仕事ですか?」


「ああ。
仕事が溜まってるから明日も…」


そこまで言って部長はハッと口をつぐむ。


「お前…。
まさか用もないのに来る気じゃないだろうな」


部長もあたしの目論見に気付いたようだけど、もう遅い。
会社に行けば、明日も部長に会えるって分かっちゃったもの。


「用もないのに行きませんよ。
ただ借りた物を返しに行くだけです」


あたしがマフラーに顔を埋めながらにっこり微笑むと、部長は大きく溜め息を漏らす。


「…来るなと言っても無駄か」


部長ってば、あたしのことよく分かってるじゃない。


「勝手にしろ」


そして、仕方なさそうに眉を下げると。
今までよりほんの少し気を許した顔でそう言った。
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