部長とあたしの10日間
給湯室でお茶を入れて戻ると、部長はおにぎり片手にあたしのパソコンに目を通していた。
梅干しおにぎりを頬張る姿さえそれなりに絵になるなんて何か嫌味…じゃなくて。


「何か間違ってました?」


「いや。
もうほとんど入力は終わってるみたいだから驚いてた」


そりゃそうよ。
部長をランチに連れ出すために普段の業務より力を入れたんだもの。


「お前、意外と仕事が早いよな」


てっきり指摘を受けまくると思っていたから、その好意的な評価にこっちこそ驚いた。
何だか狐につままれたような気分。
意外とは余計だけど。


「いいですよ、あたしのこと企画部に引き抜いてくれても」


部長の前に淹れたてのお茶を置きながら冗談混じりに言う。


「もれなくおいしいお茶もついて来ます」


部長は考えておくよ、と口元を緩めると、ゆっくりあたしに目を向けた。


「そういや、前々から経理部の部長に自慢されていたんだ。
うちの若手はなかなか見込みがあるって」


経理部長ってば、そんなこと思っててくれてたんだ。
地味な顔してるから全く眼中になかったけど、結構見る目あるじゃない、なんて見直していると。


「それがお前のことだとは、今の今まで信じられなかったけどな」


小泉部長はあたしの浮かれた気分をいとも容易くぶち壊す。
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