部長とあたしの10日間
「どうせあたしは仕事が出来そうなタイプには見えませんよーだ」


あたしがいじけながらおにぎりのビニールをバリバリと外し始めると。


「おい、ちょっと待て」


部長は不満気な顔であたしの手元を顎で指した。
どうやらこの男は、あたしのビニールの外し方が気にくわないらしい。


確かに海苔は少し破けてしまったけれど、こんなの許容範囲じゃない。


「やることが雑なんだよ。
貸してみろ」


部長はあたしの手からおにぎりを奪うと、海苔を少しも破くことなく器用に巻いていく。


そのくるくる動く手を、あたしは無意識のうちに目で追っていた。
几帳面に切り揃えられた爪も、長い指も。
男にしておくには惜しいくらいキレイ。


「どうせなら、おにぎりじゃなくてあたしを脱がせてくれてもいいんですけどね」


お茶を啜りながらぼんやりつぶやくと、部長はぶっきらぼうに、きれいに海苔の巻かれたおにぎりを突き出した。


「お前な…。
それ立派なセクハラ発言だからな」


あたしは、キラーパスを簡単にかわす部長をジロリと睨む。


「部長って本当にいい性格してますよね」


「───お前ほどじゃないけどな」
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