部長とあたしの10日間
「和樹…。
お前、何でここに…」


「今さっき営業先から戻ってきたとこ。
社畜の聡史さんのことだから今日も出勤してるだろうし、飯でも奢ってもらおうと思って顔出したんだけど…、邪魔しちゃったかな」


後藤さんはあたしと部長の顔を見比べるようにして言う。


「いや、そんなことはないが…」


部長は落ち着きを取り戻すためか、ネクタイを締め直す。
せっかく崩した仕事モードが、あっという間に元に戻ってしまった。


それにしても…。
今更だけど、部長って小泉聡史って言うんだ。
ファーストネームを知らなかったことに今気付いた。


ていうか、何で小泉部長と後藤さんがファーストネームで呼び合ってるの?
部署が違うからそんなに親しいはずないし。
たとえ仲が良かったとしても、部長は曲がりなりにも部長なんだから、ただの一部下がとる態度としては少しおかしい。


「ちょっと待て。
何で俺が奢る前提なんだ」


「そんなケチ臭いこと言っていいの?
こないだの企画部の修正案のせいで、休日返上する羽目になってるんだけど」


溜め息混じりに部長の隣に腰を下ろす後藤さんは、いつもの落ち着いた印象より心なしか幼く見える。
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