部長とあたしの10日間
「えーと…」


さっきあんなところを見られたからにはバレても全くおかしくないけど、真正面から聞かれると意外と返答に困る。


後藤さんは答えに迷うあたしを見ながら頭を掻く。


「この間櫻井さんが叔父貴に用事があるって言ってたときから、なんとなく予感はしてたんだ。
経理部の新人と企画部長に接点なんて普通ないしね。
とは言え、あんな場面を見ることになるとは思わなかった」


確かに。
家族みたいな相手のそういう場面に居合わせること程、気まずいものはないかもしれない。


「あの日、葛城の名前を出して諦めさせようとしたんだけど、効果なかったみたいだね」


ううん、効果は絶大だった。


『今頃二人でよろしくやってるんじゃないの?』
後藤さんのその一言に、あたしは簡単に打ちのめされたんだもの。


「心配して忠告してくれたんですよね。
でも大丈夫です。
あの二人、本当は何でもないって…」


「知ってるよ」


え?
あたしは耳を疑う。


「叔父貴が葛城のタイプじゃないことも。
もちろんその逆も」


ちょっと待って。
後藤さんは、部長と葛城主任の噂がデマだって知ってたの?
それなのに、あの日あたしにあんなことを言ったの?
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