部長とあたしの10日間
どうやらアルバイトの女の子が隣の席のオーダーと間違えて持ってきたウーロンハイを、部長がそれと知らず飲み干してしまったようだ。


平謝りするバイトに、仕事帰りとは思えないキラキラの笑顔で応対する後藤さんに、あの子完全に落とされたな、なんて苦笑しつつ、すやすやと眠りこける部長の顔を眺める。


部長の寝顔を見るのは二度目。
相変わらず、普段の鬼畜っぷりからは想像できないくらいあどけない顔。


「お酒が弱いって言ってたけど。
飲むとどうなっちゃうんですか?」


オーダーミスのお詫びか、はたまた逆ナンか、この店の割引券をたくさん受け取って戻ってきた後藤さんにそう尋ねると、


「この通り。
眠り込んだら、ちょっとやそっとじゃ起きないよ」


部長のほっぺたを引っ張りながら言った。


あ、いいこと聞いた。
後で後藤さんの見てないとこでキスしちゃおっかな。


「どうしましょうか、この人」


「このまま店に放っておけないし、俺が連れて帰るしかないよな。
あーあ。せっかくこのあと、櫻井さんをもう一軒連れてって口説こうとしてたのに」


「残念。
また誘って下さいね」


あたしがにっこり笑って言うと、


「完全に社交辞令だろ、それ。
本当つれないな」


意外とMなのか、後藤さんは困ったように笑って答えた。
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