部長とあたしの10日間
後藤さんに限った話なのかもしれないけど、こんな時間に呼び出されることもあるなんて営業部は大変だ。
仕事上、付き合いは大切だから断れないんだろうけど…。


「でも、そしたら部長は…」


あたしは部長と後藤さんの顔を見比べる。


「タクシー捕まえたら、叔父貴を乗っけて住所を伝えるのだけお願いしていい?」


後藤さんはスマホを取り出して画面に部長の住所を表示させると、あたしに写メを撮るよう促す。
いとも簡単に部長の住所を手に入れてしまい、ちょっと拍子抜けする。


「全然いいですけど…」


本当にごめんね、と何度も謝られたけど。
仕事相手の呼び出しじゃ仕方ないし、どう考えても悪いのは部長だ。


「くれぐれも同乗しちゃ駄目だよ。
櫻井さんは絶対にこのまま帰ってね」


後藤さんはそう念押しすると、あたしに部長を預けて去っていった。


そっか。
確かに泥酔中の部長と二人きり。
成り行きとは言え住所も知ってしまったから、このまま部長の家に押しかけることも可能なのだ。


何この整いまくったシチュエーション。
神様ってば、あたしを試してでもいるのだろうか。


そんなことを考えながら、部長の住所が写った写真とにらめっこすること10分。
空車のライトが点灯したタクシーが向かって来るのに気付いて、あたしは手を上げた。
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