部長とあたしの10日間
部長を何とかタクシーの後部座席に押し込んだ後、あたしは運転手にスマホを見せる。


結局悩んだ末、同乗するのは諦めることにした。
酔っているのにつけ込んで押しかけるのは何となく悔しいから、部長に家に誘ってもらえるようになるまで我慢しようと心に誓う。


「すみません。
この人をここまで連れていって欲しいんですけど」


部長の住まいは都内だったから、ここからそう遠くないし。
深夜料金を加算されたとしても五千円札一枚渡しておけば余裕で足りるかな、なんて思いながら財布を開いていると、


「お連れさんは乗らないんですか?
ここまで酔ってる方だと、一人じゃ困るんですけど…」


運転手が申し訳なさそうに言う。


言われてみれば、それもそうだ。
タクシーで住所まで送り届けるのはいいとして、そこからこの酔っ払いをどうすればいいんだ、って話だもの。


「…ですよね」


せっかく断腸の思いで同乗するのを諦めたというのに、さっきの誓いがあっという間に崩れてしまう。


あたしが部長の隣に乗り込むと。
タクシーはゆるゆると夜の街を走り始めた。


不可抗力とはいえ、徐々に後藤さんが心配していた送り狼になってるような気がする。


タクシーを走らせながら、運転手がさっきからちらちらとバックミラー越しにあたしたちを伺ってる。


普通なら酔った女性を送るのは男性の方が多いはず。
それと正反対のあたしたちは、観察眼に優れたタクシー運転手の目には一体どんな風に映ってるのだろうか。
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