部長とあたしの10日間
曲がり角に差し掛かったとき、部長の体があたしの肩にもたれかかって初めて、シートベルトさせるのを忘れていたことに気付いた。


ずっと触れたかった部長が、今なら手を伸ばせばすぐ届く距離にいる。


ちょっとやそっとじゃ起きない。
後藤さんがそう教えてくれたのをいいことに、あたしも部長の頭の上に少しもたれてみる。


わずかにこぼれる部長の吐息が。
頬に触れる柔らかい髪が。
あたしの心をいとも簡単に乱す。


ただ隣にいるだけでこんなにもドキドキするなんて。
一人の男にこんなに振り回される日が来るなんて。
数日前のあたしには想像もできなかった。


窓の外のイルミネーションを眺めながら、ぼんやり物思いに耽っているうちに、タクシーは部長のマンションに到着していた。


「───何ここ…」


会計を終え、部長を抱えながらタクシーを降りたあたしは呆然とする。


「高っ…」


下から見上げると、何階まであるのか一瞬数えられないくらいの高さ。
これが噂のタワーマンションてやつか。


まだ40歳そこそこでこんなとこ住んでるなんて。
本当にとことん嫌味な奴。
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