部長とあたしの10日間
まるでホテルのように立派なエントランスを抜けて。
さっきよりはだいぶマシになったものの、まだまだ足元の覚束ない部長を支えながらエレベーターに乗り込む。


後藤さんに教えてもらったメモ通りに上層階の部屋番号にたどり着いて、あたしはようやくホッと一息ついた。


「部長、勝手に上がりますからね」


最早了承をとるつもりもなく、まるで独り言のようにそう呟いて鍵を開ける。


リビングにある、多分イタリアかどこか製に違いないお洒落なソファーに部長を横たえると、あたしは極度の疲れからへなへなと床に腰を下ろした。


痩せ型とは言え、自分よりゆうに20センチは背の高い男の体重を支える羽目になるとは。


学生時代は周りの男友達が率先して持ってくれたから、下手したら自分の荷物さえ持たずに済んでたというのに。


明日筋肉痛になったらどうしてくれようか。
なんて心の中でぼやいているうちに、部長の部屋を見回す余裕が出てきた。
< 138 / 146 >

この作品をシェア

pagetop