部長とあたしの10日間
部長は今日もつれない。
やっぱり昨日泥酔している間にキスの一つでもしておくんだった。
諦めたあたしが車を降りようとドアを開けると。


「───だから早く着替えて来い」


部長が苦笑混じりに言った。


「え…?」


「昨日迷惑をかけたお詫びに、付き合ってやるよ。
お前の言うデートとやらに」


何これ、罠?


この間も誘ってくれるのかと期待したら、まんまと目覚ましに利用されただけだし。
今回も期待しちゃダメだって、頭では分かってるのに、あたしの心は全然懲りない。
思わず顔が緩んでしまう。


「───でも、双方にとってメリットがないと、デートは駄目だって…」


無駄なことをするのも必要だって言った側から、あたしのデートの誘いをそう言って断ったのは、ほんの昨日の出来事。
この一日で、一体どんな心境の変化があったと言うのだろうか。


「昨日の件でお前には借りがある。
借りを早く返せるなら、俺にも十分メリットだよ。
───もちろん嫌ならいいが…」


「いえ、行きます、行きたいです。
何も予定がなくて困ってたんです」


あたしの即答に、部長はプッと吹き出す。
最近気付いたけど、部長って普段澄ましてる割に結構笑うのよね。
< 145 / 146 >

この作品をシェア

pagetop