部長とあたしの10日間
あたしは丁寧にお茶を入れる。
昼間と同じように。
ううん、もしかしたら今までで一番気を遣って。


「どうぞ」


「…ああ」


部長のデスクにコトリと湯呑みを置くと、彼はあたしに目もくれず資料をめくりながらゆっくりと湯呑みに口をつけた。


せっかく張り切って淹れたのに、何のコメントもない。
少しがっかりしながら自分の席に戻ろうとしたとき、部長はおもむろにこちらに視線を向けた。


「───そういえば。
残業なんて、どういう風の吹き回しだ?」


何だ、お茶の感想じゃないのか…、って。
あたしってば、何がっかりしてるんだろう。
この男の口からおいしいなんて褒め言葉がそう簡単に出るわけないと分かっていたのに。


「恋愛に現を抜かすのはやめたのか?」


どうして、この男はいちいちあたしの神経を逆撫でするような言い方をするのだろうか。


さっき助けてくれたときと、あたしの淹れたお茶を褒めてくれたときに、実はいい奴かもしれないと感じたのに。
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