部長とあたしの10日間
「おあいにくさまでした。
この後、和田さんと二人きりで食事です」


あたしが二人きりを強調すると部長はふぅん、と鼻を鳴らしてあたしを見た。


ドキッ。
この鋭い目に見つめられると、やっぱり落ち着かない。
まるで心の中まで見透かされてるような気分になってくる。


「和田さんを振り向かせて、外見も中身も葛城主任よりいい女だって証明してみせます」


そう断言したあたしに、部長は一瞬呆れたような顔をしたかと思うと、すぐに苦笑しながら言った。


「まぁ、ほどほどにしとけよ」


何、今の笑顔。
いつもすましてる分、破壊力が半端ないんだけど。


「ご馳走様」


そう言って部長が資料に視線を戻すのを見届けたのち、あたしは自分のデスクに戻って再び作業に取り掛かる。


だけど、作業に集中できない。
何なの、この胸のざわつき。
絶対さっき部長の笑顔を見たせいだ。


これから和田さんとデートだっていうのに、何で部長にこんなにペースを乱されているんだろう。


いくら綺麗な顔をしてても。
いくら、意外といいやつでも。
口の悪い40絡みの男なんてタイプでも何でもないのに…。


知らぬ間にあたしと小泉部長だけになっていたフロアに、自分のキーボードを叩く音だけがやたらと響いた。
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