部長とあたしの10日間
「そうか…」


部長はそう小さくつぶやくと、あたしとは対照的に全く緊張感のない様子で続けた。


「これから少し仮眠をとるから、お前が終わって帰る頃に声を掛けてくれないか?」


あたしは耳を疑う。
今、なんて言った?


信じられないし信じたくもないけど、目の前であくびを噛み殺すその様子からどうやら冗談を言ってるようには見えない。
まさかとは思うけど、あたしを目覚まし代わりにするために上がる時間を聞いたの?


「聞こえなかったか?
起こしてくれと頼んでるんだ」


こっちは誘われてるのかどうなのか、部長の真意が分からず混乱してたっていうのに、論外だった。
拍子抜けもいいとこだ。


「いいですけど…」


反発するのもバカらしくなってあたしは頷く。
ていうか、そうやって断る余地を与えない場合は頼んでるって言いませんけどね。
これだから相手を意のままに操るのに慣れた管理職はタチが悪い。


「仮眠をとるなんて。
随分お疲れなんですね」


期待させられたのも、それを打ち砕かれたのも悔しくて、出来る限りの嫌味を込めて言ったのに、部長は意に介する様子もない。


「ああ。
昨日はあまり寝てなくて」


のんきな調子であくびをすると、そのまま歩き出した。
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