部長とあたしの10日間
「部長?」


しばらくそのまま待ってみたけど返事がない。
声に気付かないくらい熟睡してるのだろうか。
大阪出張から帰って来た後も、立て続けに仕事だったらしいし、今頃疲れがピークに達していてもおかしくない。


「…入りますよ」


迷った末に扉を開けると、ソファーに座って腕を組んだまま目を閉じる部長の姿があった。


「部長、終わりましたよ。
起きてください」


さっきより少しボリュームを上げてみたけど、部長は一向に起きる気配がない。


「もう、部長ってば…」


仕方なく体を揺すろうと側に膝をついたとき、あたしはうつむき加減だった部長の横顔に目を奪われた。


年齢からは考えられないくらいきめ細かい肌と、それに陰を落とす長いまつ毛。
薄くキレイな唇から規則正しく漏れる、心地よさそうな寝息。


いつものしかめっ面からは考えられない、あどけない顔。


部長もこんな無防備な顔するんだ…。
あたしは無意識のうちに部長の頬に手を伸ばしかけて、慌てて引っ込める。


あたしってば。
何を無遠慮に触ろうとしてるんだろう。
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